「感じのいいお客様」については古くから言われていることがある。それは、次のようなことである。
「私は感じのいい客だ。わかるだろう。私はサービスがどんなにひどくても、決して文句を言わない。」
例えば、レストランに入って席に着く。ウエイターやウエイトレスが私の注文を取りにもこず、おしゃべりに夢中になっていても、私は静かに待っている。時には、後から来た人を先に席に案内することもあるが、私は、文句をいったりしない。ただ辛抱強く待つだけだ。
店に入って買い物をするときだって、私は大きな態度をとったりしない。私は、相手に思いやりの気持ちをもつように努めている。閉店間近の時間に来店し、どれを買うかを決める前に、商品をいくつか見せてほしいという私に、横柄な店員がつっけんどんな態度をとっても、私はできるだけ丁寧な口調を崩さない。私は、ぞんざいな言葉でやりかえしたりしない。フルサービスのガソリンスタンドで5分も待たされることもある。ようやく私の番になってガソリンを入れてくれると思ったら、ガソリンをこぼす始末だ。おまけに油じみたクロスでフロントガラスを拭く。私がひどいサービスに文句を言ったかって?いいえ、私は文句は言わない。
ものを蹴飛ばしたり、大勢の人がいるのに大声で文句を言ったりする客もいるが、私は決してそんなことはしない。そう言うことはするものじゃないと思う。私は感じのいい客なのだ。そして、付け加えるなら、私は、そういうお店には二度といかない客なのだ。
この話を肝に銘じつつ、次の数字を見てみよう。
■普通の企業の場合、不満を感じた場合にその会社に連絡をしてくるお客様は、わずか4%に過ぎない。不満を感じたお客様の96%は、何も言わずに済ませてしまい、その人たちの91%は、二度とその会社と取引をしない。
このことは、お客様の扱い方を心得ていない企業にとっては、大きな金銭的損失であるが、その方法を心得ている企業にとっては着実な発展に結びつくチャンスである。
■お客様が取引をやめる理由を調査したところお客様の
・3%は「転居」
・5%は「他になじみのところができた」ため
・9%は「もっと競争力のあるところ」に乗り換えたため
・14%は「製品の質に満足できなかった」ため
・68%は「客に対する無関心な態度」を理由としてあげた。
■お客様が苦情を持ち込んだ時お客様のためになる形で問題を解決してあげると、10人のうち7人は取引を続けてくれる。その場で苦情を解決すると、取引を継続してくれる率は95%になる。平均すると、苦情を解決してもらって満足した人は、苦情があったが、見事に解決してもらって感心したという話を5人の人に話すそうだ。
■不満を感じたお客様は平均8人から10人にその不愉快な経験を話す。5人に1人は20人もの人に話すそうだ。
■お客様に質の悪いサービスを一度経験させてしまうと、それを埋め合わせるに良いサービスを12回経験してもらわなければならない。
■平均的企業では、新しい顧客を獲得するため、古くから顧客を維持するコストの6倍のコストをかけている。詳しく計算してみると顧客ロイヤリティは、サービスチケット1枚の10倍の値打ちがある。
得意客を上手に引き留めておくためには、質の高い顧客サービスが大切だということは誰でも知っている、それなのに、質の高い顧客サービスをマスターするのが難しいのはなぜだろうか?
顧客サービスの障害となっている4つの事柄を見てみよう。
従業員が基本を理解していない。
お客様と直接接する従業員が基本さえわかっていない例も珍しくない。
彼らは、ロイヤリティーの高い得意客を獲得し、引きつけておくためには何が必要なのかを理解しないまま仕事の現場に送りこまれている。
そのため、得意客を逃しても一線のスタッフ(美容師や受付)には、客が離れていった理由がわからないのだ。
顧客との接触の重大局面(すなわち企業の存続にもかかわりかねない)の見極めができておらず、適切な管理も行われていない。
どのお客様もあなたとビジネスをする時に、このぐらいのサービスは当たり前だろうと期待していることがある。お客様と接触をもつ時はいつでも、お客様の期待以上の経験を提供するチャンスなのだ。
・出迎え
・待ち時間
・コンサルテーション
・サービス
・見送り
・フォローアップ
・反対/苦情への対応
報奨制度
社内で顧客サービスが行き届かない大きな理由は、実は報奨制度にあるのかもしれない。行き届いた顧客サービスをお客様に感じさせるような行動に対して、マネージャーやオーナーが相応の待遇をしていないのだ。マネージャーやオーナーは、そう言うことよりもむしろ美容師の指名率などを記録して報奨を与えたり、歩合給を出したりと質ではなく、量を評価する傾向がある。また、顧客はひいきにしているのに感謝されていないと感じると、よそへ行ってしまう。つまり見返りを与えれば、望ましい行動が増えるのである。
私は、「セールスマン」にはなりたくない。いいセールスマン以上のものになること。
われわれの業界では、「良きセールスマンであれ」ということが常に言われる。
それに対して、われわれは、「私はただのセールスマンではない」と応える。本当のところを言えば、誰でも買い物は好きだが、売りつけられるのは好まない。
今日のように競争の厳しい市場では、売りつけられていると感じたら、お客様はよそへ行ってしまう。ましてや、良きセールスマンではない美容師に不愉快な思いをさせられたら・・・
それでは、サービスチケットを増やすとか、小売り部門を作るという考えは捨ててしまわなければならないのだろうか?そうではなく、われわれは、お客様が求めるもの、必要としておられるものに焦点をしぼり、お客様に一番ぴったりなものを選ぶ手助けをし、それを気に入ってもらわなければならない。
皮肉なことだが、「売ること」をわきへ退けることが、お得意様により良いサービスをより多く経験していただき、お客様のロイヤリティーを高め、あなたの売り上げを伸ばすためには、おそらく最も確実な方法である。
仕事の中で最優先することは、お客様のお手伝いをすること。
毎日仕事を始める前の2、3分、次のように自分に問いかけてみよう。
どうしたら、お客様のお役にたてるのか?
次にあげる5つの分野は、満足したお客様をつくるために努力すべき分野である。
この5つを「基本マスターする」と呼ぼう。
■信頼性:一貫した仕事の出来栄えこそ、間違いなく顧客がもっとも求められるものである。一貫性があるということは、お客様があなたのサービスに安心していられるといいことだ。一貫性を身につけるためには
・すると言った時に実行するすること。
・1回でちゃんとできること
・時間通りにすること
■信用:顧客が進んでお金を払ってもいいと考える対象はまごころである。
われわれも自分が客の立場になった時は、心からお客様のお役に立ちたいと思ってくれて、お客様を第一に考えてくれる会社や人間をひいきにしたいと思う。問題が起こった時は、お客様の第一の姿勢で速やかに解決をはかってくれる真摯さ、正直さ、そして知識こそわれわれの求めるものである。基本的に何か裏があると感じさせられたり、無理やりしつこく売り付けられたりするのを好む人間はいない。われわれは、信用のおける会社や人間とつきあいたいと願っているのだ。
■魅力:見かけにだまされることはよくあるが、顧客があなたのサービスを評価する時は
自分の目で見たものに基づいて判断している。
そのあたりの事情を、あるパイロットがこんな風に語ってくれた。
「乗客が座席の前のテーブルを倒したらコーヒーをこぼしたあとがついていたとする。するとその乗客は、『エンジンの点検もこんな調子なんだろうな』と想像してしまうのだ」顧客の目を通して自分の会社を見ることを忘れてはいけない。そして、お客さんが目や手に触れるもの、耳にすること。そして、嗅ぐことが残らずあなたが打ち出そうとしているイメージを反映するようにしなければならない。
■反応が速い:好むと好まざるとにかかわらず、われわれは瞬間的にものごとが決まってしまう時代に生きている。反応が速いということは、問題を抱える顧客にとってすぐに手が届くところにいて、利用しやすく、親身に世話を焼いてくれるということである。さらに、顧客にできるだけ速く情報とサービスを提供することでもある。
約束する時は控えめに、実行するときは約束した以上に実行する。
■共感:顧客ひとりひとりが特別な人間でありそのような扱いを受けたいと望んでいる。
顧客にはそれぞれの他の人とはまったくちがう個性があり、ものを買う理由も人によって違う。顧客を特別な人と扱い、その特別な人の抱える問題を解決してあげれば、人はあなたのお客様になるだろう。
共感するという、ことは、顧客の身になってものを考えるということだ。
顧客の物の見方、感じ方を理解しようと努めること。すなわち熱心に耳を傾けること、適切な質問をすること、顧客と同じ言葉づかいで話すこと、そして顧客に合わせたサービスを提供して、顧客がこのようにあつかわれたいと望んでいるように扱うこと、つまり一人の人間として扱うことである。
上にあげた5つの要因は、憶えておくとよい。
というのも、顧客と接するたびごとに、これらの要因をあてはめれば、しっかりした得意客のベースを築き上げることができるからだ。